中国の希望と悩み

中国の希望と悩み

2011年9月22日

9月14日から17日まで、いわゆる「サマーダボス」出席のため大連を訪問した。百聞は一見に如かず。中国の「希望と悩み」、「光と影」が立体的に見えたような気がした。

初日、ホテルの部屋で英字紙China Daily(9月14日付け)を見て胸をつかれた。見出しは「娘のために痛みに耐える」。農民工の父親が、火事で皮膚の60%を火傷した娘に、皮膚の移植をした話である。ベッドの上の父親と娘の大きな写真が掲載されている。

内容は次の通りである。父親は本来全身麻酔で行う手術を、費用節約のために痛さに耐えて局所麻酔で行った。それによって700元(1元14円として1万円弱)節約できる。農民工の医療保険は(出身地の農業協同組合が保険者であり)、費用の60%をカバーする。そして支払われる金額は各地域の経済状況により1千元(約1 4千円)から4万元(約60万円弱)である。彼は二人の娘の他に失業中の妻及び両親を養わなければならず、年収1万元(約14万円)の所得ではとてもやっていけない。

記事は、「社会保険制度はどこへ行ってしまったのだとか、貧しい地方の家族のために政策がとられるべき、」というネチズンの意見も紹介していた。マスコミ報道の結果、約3万元(40万円強)の寄付が集まったそうである。

同日付けの新聞には もう一つ、食用廃油のリサイクル事件についての報道も載っていた。これはレストランから排水溝に流された食用廃油をバケツで集めて密かにリサイクルし食用油として売った事件で、これによって32人が逮捕されたそうだ。食料の安全性が大きな課題であることをうかがわせた。

サマーダボスで会ったある中国人ビジネスマンは私の質問に対しこう答えた。
「今一番大変な問題はインフレだ。二番目に大変な問題は住宅が高いことだ。それから三番目に所得格差が広がっていることだ。日本では首相が5年間で6人変わったそうだが、自分はそれは問題ではないと思う。日本はそれにも拘わらず経済が成長しているし、国民のおさめた税金は国民に還元されている。」

中国政府は第12次五か年計画において成長の質に光をあてている。日本人には中国の高い経済成長という光の部分、国防予算の増大や海洋政策への疑念が大きくクローズアップされているが、中国の悩みについても視野に入れていく必要がある、と感じた。

これからの中国指導者はインフレと経済成長、経済成長の質と量、経済成長と所得分配や社会の安定、などの並び立ちにくい問題のバランスをとりながら国家の運営をせまられることになる。また、インターネットで表明される国民の声をコントロールしていくことは不可能に近い。かなり狭い尾根歩きになるだろう。

隣国中国のこれからの進路は日本にとっては他人事ではない。社会保障、高齢化社会のマネージメント、経済成長の質と量のバランス、これらは日本が今までに経験をし、ないし現在経験中の事項である。戦略的互恵関係を築いていく基盤は大きい。